この夏、日本列島は、多くの自然災害に見舞われました。
被害にあわれた皆様は、どのようにお過ごしでしょうか。
少しでも早く、平穏を取り戻されることを祈念しております。
目次
寄稿文「公共図書館の倫理とマイクロ・ライブラリーの矜持」
– 礒井純充(まちライブラリー提唱者)
白馬村プロジェクトの進捗ご報告
– 花井裕一郎
活動報告
図書館総合展でフォーラム開催!
編集部より
奥付
寄稿文
「公共図書館の倫理とマイクロ・ライブラリーの矜持」
礒井純充(まちライブラリー提唱者)
ジェーン・ジェイコブスという人をご存知でしょうか?「アメリカ大都市の死と生」(1961=2012)の著者として都市計画、まちづくりに携わった人ならば一度は聞いたことのある人です。彼女は、米国のジャーナリストであり、また近代都市計画への痛烈なる批判家でもありました。著書の中でジェイコブスは、米国とりわけニューヨークを舞台とした近代都市計画がいかに地域のコミュニティを破壊してきたか、そしてその「計画性」ゆえに無駄な都市公園や公共施設を作ってきたかを問いただしています。例えば、街路を広げたことにより従来なら往来する人同士が挨拶や会話ができたのにそれを車の通行に奪われ、そこで子どもたちが遊び、アパートの前の階段に座る大人がその様子を見守るような関係性はなくなってしまったと指摘しています。彼女は、近代都市計画は、生活者の実態に即していない、生活者は生き物であり、都市の「自然観察」から導き出されたまちづくりが必要だと唱えたのです。
日本には、現在3300を越える公共図書館があります。多くの人に本を活用してもらって教養形成や人生設計に役立ててもらい、著作物を保存蓄積し次代の人々にも文化伝承をしていこうという専門倫理観を形成してきました。しかし今、公共図書館にも大きな転機がきたと、多くの方が指摘しています。民間の力でもっと自由で効率的な運営をやるべきであるとか、イベントや交流の場所として市民に開放し、まちづくりに活用していくべきであるとか様々意見と実践が交錯しています。ただ「公共図書館」は、行政組織です。変化への対応には時間がかかります。
一方、近年増加しているマイクロ・ライブラリーは、私的な活動であり、自由に運営されています。本を持ち寄り、各自が本を紹介しながら人のつながりを作ろうとする活動から個人で数万冊の本を集め、地域の人が貸し借りしているところもあります。場所も自宅、職場、お寺や病院、公園や山の中、商店街や商業施設まで多岐にわたって展開されてきています。マイクロ・ライブラリーの数を正確に把握するのは、困難ですが、私が提唱している「まちライブラリー」は、2011年に13カ所程度であったものが、2018年3月現在、560カ所を越えるまでに増えています。ある人は、亡妻の遺した本を捨てられず、自宅をまちライブラリーにし、ある人は両親が遺した米屋の店舗をまちライブラリーとギャラリーに改装し、地域に開放しています。それぞれの生活の知恵と工夫で場が生まれ、育っているように感じるのです。都市計画から生まれた場所ではなく、ジェイコブスが指摘したように生活の中に自然と生まれる場所になっているのです。このようなマイクロ・ライブラリーを観察し、本がある居場所に何が求められているのかを見続け、育んでいくことが大切だと感じています。そしてその活動の輪に、公共図書館も既に入ってきています。
公共図書館とマイクロ・ライブラリーは、まったく正反対のアプローチで広がってきましたが、生活空間に本を増やし、人と本、人と人が出会う居場所作りを協働していけるような気がします。“I have a dream”、いつの日かマイクロ・ライブラリーが多くの人にとって生きがいの場となることを夢見ています。皆様のご協力や応援をお願いします。
参考リンク
まちライブラリー
白馬村プロジェクトの進捗ご報告
白馬村の図書館等複合施設プロジェクトは、今年度内の基本構想策定を目指して進んでいます。
8月30日には、白馬村役場で有識者会議が開催され、率直な質問や意見がたくさん飛び交いました。
9月12日には、村民の皆さんを招いたワークショップを開催しました。SDGsから白馬村を考え、図書館、複合施設のあり方へと繋がります。若い世代が語る、熱いワークショップになりました!
これからは、10月19日の第2回ワークショプ、そして20日のヒアリングなど、プロジェクトは止まらず、進んでいきます。
また引き続き、本メールマガジンでもご報告してまいります。
花井裕一郎(一般社団法人日本カルチャーデザイン研究所 理事長)
活動報告
2018年8月31日
2018年9月14日
白馬図書館及び複合施設に関するワークショップが開催されました
2018年9月15日
図書館総合展でフォーラム開催!
図書館業界最大の展示会「図書館総合展」が
10月30日~11月1日、バシフィコ横浜で開催されます。
JCDLab主催のフォーラムは、
全国の自治体が悩み、情報収集をする交付金などの資金調達についてのご相談をお受けし、独自の調査を元に、「社会資本整備交付金」(国土交通省)「SDGs未来都市及び自治体SDGsモデル事業」等をはじめとする様々な交付金の申請、調達をご提案しております。
今回のフォーラムでは、資金調達に成功した図書館、担当省庁担当者をお招きし、具体的な事例や助言をご紹介頂きます。各地方自治体の首長、省庁の担当部局を始め、そうそうたる登壇者が決定しています。
複合施設建設を先導してきたリーダーが、資金調達の実情について語ります。図書館設立に関わる皆様方に、必聴のフォーラムになることは確実です。
満席となる前に、お早めにお申し込みください!
ファシリテーター
糸賀 雅児 慶應義塾大学名誉教授
ゲストスピーカー
文部科学省生涯学習政策局
国土交通省大臣官房社会資本整備総合交付金棟総合調整室(予定)
総務省自治財政局(予定)
吉成信夫 岐阜市立図書館 館長
他、自治体関係者に交渉中
※ご参加者様につきましては、フォーラム参加費 1,000円 を当日の受付の際に承ります。
最新の情報はこちら
その他の活動報告はこちらをご覧ください → http://jcdlab.com/news/
編集部より
今号のCul De La通信では、礒井純充様の寄稿文をお届けしました。
冒頭の、ジェーン・ジェイコブスによる告発を始め、大局的な施策が生活の実態への配慮を欠く例は、枚挙にいとまがありません。
しかし近年、行政が生活者レベルの視点を獲得しようとする動きが高まっています。寄稿文でも、巨視的な公共政策が微視的な地域活動へ歩み寄る現状が示されました。「SDGs」が169ものターゲットに細分化されるのも、世界の変革に対し、生活地域レベルの達成が不可欠であるという意識の表れです。
日本の行政も、こうした目標達成の支援へ動いています。私たち自身は、まさにこうした歩みに寄り添う活動をしています。白馬村では、生活者の視点を計画に映し出す取り組みを重ねています。図書館総合展でのフォーラムもまた、政策をくらしにつなげるものです。一つ一つの歩みはいつか、地に足のついたくらしと、世界を俯瞰する眺望をつなぐ、大きな橋を描くでしょう。
編集部 髙城 光
奥付
Cul De La 通信
2018年9月25日発行 通巻第5号
発行 一般社団法人日本カルチャーデザイン研究所