Cul De La 通信 第10号

今年の春はすがすがしい日が続き、桜の花も長く楽しめました。
花々の間には、みずみずしい若芽が力強くのびています。


目次

  • 寄稿文「僕をかたち作った場所」―― 山口覚(津屋崎ブランチ)白馬村新図書館等複合施設基本構想策定業務が完了しました!

    ―― 花井裕一郎(一般社団法人日本カルチャーデザイン研究所 理事長)

    機関誌『Cul De La』まもなく完成です

    編集部より

    奥付

 


寄稿文

「僕をかたち作った場所」

山口覚(津屋崎ブランチ)

“図書”という単語から真っ先に思いつくのは小学校時代の冬の図書室。
凍えるほどの寒い教室とは違い、ストーブが焚かれ、緑色のふかふかの絨毯が敷き詰められたその場所は、
小学校にありながらも大人の雰囲気の漂う場所だった。
週に1度の図書の時間は楽しみにしている時間だった。
いや、正確に言うと読書そのものが楽しみだったというよりも、
誰にも邪魔されない45分間が保証されることに意味があったというべきだろう。
その空間で好きなだけ本のタイトルを眺め、手に取り、6人掛けの大きなテーブルを広々と使って読む。
自由に振る舞える時間は自分が大人扱いされているようで嬉しかった。

1年生の時から大好きだったのは、学研のひみつシリーズ。
「地球のひみつ」を手に取ると、マンガなのでスルスルと読み終えてしまった。
地球がマントルでできていて、年間に数センチずつ移動していることを知る。
あまりの面白さに、図書室に通い詰め、ひみつシリーズを読破。
飛行機はベルヌーイの法則で飛んでいることを知り、人体の臓器の役目を理解した。
今考えると1年生でそのくらいのことは覚えるのだなと感心する。

文章として最初に読んだ記憶があるのは伝記もので「石川啄木」。3年生の時だったと思う。
「はたらけど はたらけど なお我が暮らし楽にならざり ぢっと手を見る」
今思えば随分と渋いチョイスをしたものだが、ふりがなが振ってあったので何の抵抗もなく読破した。
その本を皮切りに人の人生を追体験できる面白さを知り伝記にはまる。
野口英夫、ナイチンゲール、アンネの日記などを続けざまに読んだ。
それから次は江戸川乱歩シリーズに没頭。

自分は外で遊ぶことが大好きで特に本好きだったというわけではない。
思い返せば、中学高校と全く読書から離れてしまった。
なのに小学校の頃に読んだそれらの本の内容は今も心に深く刻まれているのはなぜだろう。

子供の頃、大人たちはあれをしろ、これはするなと煩わしく渋々従っていた。
しかし本を選ぶ楽しみと読む楽しみは、大人の干渉の外にあった。
何より、心と頭の中に広がる空想の世界は誰にも邪魔されない大切な場所だった。

自由とともに、自ら学べる喜びを満喫できた図書の時間。
図書に触れる環境が身近にあるということは、自分だけの城を持つということなんだろう。

山口 覚(津屋崎ブランチ)

関連リンク

津屋崎ブランチ

 


白馬村新図書館等複合施設基本構想策定業務が完了しました!

平成30年度の業務として、長野県白馬村の新たな図書館等複合施設における
基本構想策定業務を完了いたしましたことをご報告いたします。

本基本構想の策定支援にあたっては、これまでに実施したアンケート調査、
SDGsの視点から意見を出し合った3回のワークショップ(花井理事長が企画設計及びファシリテーター)、
専門的な視点での議論のための有識者会議の開催(花井理事長が有識者としても出席し、
当社団で運営のご支援も担わせていただきました)等を踏まえて、
様々なご意見を基に、白馬村と共に検討してきました。

これまでに意見が出されてきた、村内外・国内外問わず、多様な人々が集い、出会い、交流し、
学ぶことのできる場所であってほしいという想いや、図書館施設検討委員会の検討内容、
そして、多様な文化と交流する居場所づくりをすることで、
未来を担う子どもたちが豊かな白馬村を創造することのできる拠点として、集い続け、
愛され続ける施設となってほしいという願いを込めて、
「多様な創造性と出会い、豊かな未来へ誘う道しるべ」というコンセプトを定めました。

白馬村は、山岳があり豊かな自然があること、村内外に留まらず、
海外からの来訪者や移住者も多いなどという特徴があります。
それらの特徴を活かし、守りながら、現状の図書館や子育て、福祉などについての
課題解決にも繋がり、「白馬の豊かさとは何か―多様であることから交流し学びあい成長する村―」
という村の基本理念を実現する拠点として、白馬村らしさが光る新図書館等複合施設を目指しています。

今年度は、有識者会議で出された「滞在型」と「交流型」というキーワード、そして、
基本構想にもまとめた新図書館等複合施設に求められるサービスや機能連携を基に、
基本計画の策定に入っていくことになります。

引き続き、白馬村に相応しい新たな拠点づくりのために、ご支援させていただきたいと思います。

「白馬村図書館等複合施設基本構想」及び
「白馬村図書館等複合施設基本構想概要版」については、こちらをご参照ください。

白馬村図書館等複合施設基本構想/白馬村

花井裕一郎(一般社団法人日本カルチャーデザイン研究所 理事長)

 


機関誌『Cul De La』まもなく完成です

機関誌『Cul De La』第2号は、4月23日発行予定です。

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道標 植松貞夫
「図書館建築の評価ポイント」

対談企画 伊東直登 × 岡本真
「地域連携と図書館——図書館の新たな役割」

展望 畝森泰行
「須賀川市民交流センターの挑戦——有機的な建築を目指して」

対談企画 河瀬裕子 × 手塚美希
「地域を活かすライブラリアンシップ」

建築特集 坂田泉
「紫波町図書館」
「須賀川市民交流センター tette」

エッセイ 鳴海雅人
「風音と潮騒が聞こえてくるだけで価値観が変わる場所
——生き続ける遺伝子 ミライon図書館(長崎県立・大村市立一体型図書館)」
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今号は「図書館建築」「地域連携」を大きなテーマとしています。
構想段階から注目の集まった「須賀川市民交流センター tette」が、今年1月にオープンしました。
「tette」は、東日本大震災からの創造的な復興を目指して計画されており、
まさに、2つのテーマが経糸と緯糸のように重なり合っています。
今回の『Cul De La』ではここを核とし、
図書館建築と地域連携のキーマンといえるゲストにご寄稿、ご対談いただきました。
建築をめぐる3つの寄稿は、よい図書館建築とは?という問いへの答えを導きます。
また、地域連携をめぐる2つの対談企画のコントラストも、面白い見どころです。

編集部デザイナーは、手塩にかけたレイアウト稿を印刷所に渡し、
仕上がりを待っているところです。
みなさまのお手元にも、まもなく届きます。
どうぞ楽しみにお待ちください。

 


編集部より

今号では、山口覚様のご寄稿をお届けいたしました。
私の息子はまだ字を読めませんが、彼もひとりで読書をします。
字を読めない子どもが、夢中になって読書するということは、
私にとって意外な発見でした。
部屋のどこにでも座り込み、絵本のページをじっくりとめくり、想像をふくらませています。
覚えている絵本の言葉をポツポツとつぶやいていることもあります。

ひとりで本を読んでいる彼の姿には、近寄りがたい尊さがあります。
そういう姿を見ていると、本を読む時は子どもにとってとても根源的な、
世の中のものごとと向き合う時なのだな、と思います。
どのような子どもも、こういう「時」に恵まれる環境にあってほしいと願います。

年度の変わり目で、お忙しくされている方も多いと思います。
みなさまお身体に気をつけて、よい春をお過ごしださい。

編集部 髙城 光

 


奥付

Cul De La 通信
2019年4月19日発行 通巻第10号

発行 一般社団法人日本カルチャーデザイン研究所

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