朝晩はすっかり涼しくなり、さわやかな秋となりました。
目次
寄稿文「インドの村での20歳の出来事」
– 高橋和也(自由学園学園長)
白馬村プロジェクトの進捗ご報告
– 花井裕一郎
活動報告
図書館総合展でフォーラム開催!
会員総会のご案内
編集部より
奥付
寄稿文
「インドの村での20歳の出来事」
高橋和也(自由学園学園長)
1982年、20歳の学生だった私は友人と2人、南インドのオダンチャトラムという村にあるキリスト教系の病院で約3週間を過ごすスタディーツアーに参加する機会を得ました。
初めての海外体験だったこともあり、このときの様々な経験は、私のその後の人生に大きな影響を与えるものとなりました。中でも印象深く心に残っているのは、巡回診療に同行させていただいた小さな村での一つの失敗の思い出です。
ドクターたちは病院での診療に加え、古いバンに医療器具や薬を積み込み、病院に足を運ぶことのできないお母さんや子どもたちのために定期的に村々への巡回診療を行っていました。ドクターが診療する間、集まってくる子どもたちと遊ぶのが私たち学生の役割でした。
初めて巡回診療に行った時に、私たちはソーシャルワーカーに教えられるままに赤茶けて乾燥しきった地面に15、6人の子どもたちと一緒に輪になって座り、「オラゴリア・ムンドゥリカ」という「ハンカチ落とし」ならぬ「シャツ落とし」をすることになりました。
子どもたちはうれしそうに私たちを狙ってシャツを落とし、狙われた私たちは砂ぼこりの中、掛け声と共に何度も子どもたちの輪の周りを走り続けることになりました。この遊びに終わりはなく、私は体中汗と砂にまみれ、喉も枯れ、もうへとへとでした。そんな私たちの様子を見て、子どもたちはますます楽しそうでした。ようやくドクターたちの診察が終わり、引き上げの合図が出されたときには本当にほっとしました。遊びは1時間ほど続きました。
逃げ込むように私たちはバンに乗り込みましたが、そのとき予想外のことが起こりました。
輪になっていた子たちが別れを惜しみバンの周りに駆け寄り、走り出そうとする車の窓にしがみつき、バンパーの上に乗りかかり、「タタータター」(タミル語で「バイバイ」)と大騒ぎになったのです。子どもたちは動き出した車をいつまでも追いかけてきました。心が通い合ったことが感じられ、泥にまみれながらも充実した疲労感に満たされました。
しかしその後、何度目だったか巡回診療に同行したときには、私は体調を崩した後だったこともあり、あの泥まみれの遊びはかなわないと思い、子どもたちと一緒に折り紙を折ることにしました。
ところが村に着き、集まった子どもたちに折り紙を配り始めると、まったく予想していなかったことが起こったのです。子どもたちは「一人一枚持ったら座りなさい」と言ってもお構いなしで、何度も折り紙に手を伸ばし、取り合っては破れた紙があたりに散乱する、という状態が延々と続いたのです。
子どもたちにとって四角くきれいな紙は珍しいもので、その紙を手に入れることに夢中になってしまったのです。大変なことになったということはわかったのですが、事態は収拾できませんでした。むなしく時間が過ぎ、たくさんあった折り紙はどんどん減っていきました。
そしてやっとドクターの「帰るよ」との声がかかった瞬間、また驚くべきことが起こりました。私の手の中の折り紙に群がっていた子どもたちが、蜘蛛の子を散らしたといった様子で一人残らず消えて行ったのです。
沈黙の中、破れて地面に散らばった折り紙を拾い集め、私はバンに乗り込みました。子どもたちの心を乱してしまったこととドクターたちへの申し訳なさでいっぱいでした。帰りのバンの中は重苦しい沈黙となりました。
「オラゴリア・ムンドゥリカ」の後に心が通ったのは一体なぜなのか。「折り紙」が子どもたちの心から何を引き出したのか。人と人、物と人の本当によい関係とはどのようなものなのか。豊かさとはなにか。20歳の夏、私は様々な問いを抱えて日本に帰ってきました。この経験はその後の私の原点となりました。
あれから30年以上が過ぎましたが、私は今もインドの子どもたち、お世話になったドクターたちへの感謝と懐かしさを抱えつつ、このインドの小さな村から続く道を歩いています。
関連リンク
寄稿文内のスタディツアーを引率された、佐藤智先生は、一般社団法人ライフケアシステムを立ち上げ、在宅医療の先駆者として活躍されました。
一般社団法人 ライフケアシステム _ 自分らしい人生を最期まで送っていただくために健康と医療を総合的にサポートします。
白馬村プロジェクトの進捗ご報告
10月19日、白馬村役場にて、第2回のワークショップが開催されました。
参加者それぞれが、SDG’sのレクチャーを踏まえて、たくさんの人にリサーチする!という宿題に、みなさんそれぞれが活発に応えてくださいました。
今回はいくつもの意見を、整理、交換しする時間としました。
本日10月25日には、第2回の有識者会議も実施されました。その模様は、またホームページ等でお知らせしていきます。
花井裕一郎(一般社団法人日本カルチャーデザイン研究所 理事長)
図書館総合展でフォーラム開催!満席御礼!
※ おかげさまで、本フォーラムは満席となりました。
お申し込みくださった皆様、ありがとうございます。
図書館業界最大の展示会「図書館総合展」が
10月30日~11月1日、バシフィコ横浜で開催されます。
JCDLab主催のフォーラムは、
全国の自治体が悩み、情報収集をする交付金などの資金調達についての
ご相談をお受けし、独自の調査を元に、
「社会資本整備交付金」(国土交通省)「SDGs未来都市及び自治体SDGsモデル事業」
等をはじめとする様々な交付金の申請、調達をご提案しております。
今回のフォーラムでは、資金調達に成功した図書館、担当省庁担当者をお招きし、
具体的な事例や助言をご紹介頂きます。
各地方自治体の首長、省庁の担当部局を始め、
そうそうたる登壇者が決定しています。
複合施設建設を先導してきたリーダーが、資金調達の実情について語ります。
図書館設立に関わる皆様方に、必聴のフォーラムになることは確実です。
ファシリテーター
糸賀 雅児 慶應義塾大学名誉教授
ゲストスピーカー
・文部科学省 総合教育政策局 地域学習推進課 青少年教育室 室長補佐
(併)青少年体験活動推進専門官
・国土交通省 都市局 市街地整備課 企画専門官(まちづくり交付金担当)
・神奈川県大和市長
・奈良県生駒市長
・吉成信夫 岐阜市立中央図書館 館長
※ご参加者様につきましては、フォーラム参加費 1,000円 を当日の受付の際に承ります。
最新の情報はこちら
図書館政策フォーラム | 図書館総合展
会員総会のお知らせ
「一般社団法人日本カルチャーデザイン研究所 第1回会員総会」
日時:2018年11月1日(木)16:00~17:00
会場:横浜ランドマークタワー カンファレンスルームC
住所:神奈川県横浜市西区みなとみらい2丁目2番1号 25F
※会員以外の皆様も社団の活動をご理解いただくためにご参加を歓迎いたします。
パシフィコ横浜より徒歩5分程度
活動報告
2018年10月20日
白馬図書館及び複合施設に関するワークショップ(第2回)が開催されました
その他の活動報告はこちらをご覧ください → http://jcdlab.com/news/
編集部より
本日は、自由学園の学園長でいらっしゃる 高橋和也様のご寄稿文をお送りしました。
日本は、物にあふれた豊かな国です。しかし、物が増えるとともに、一つ一つの物の価値は下がっていくのかもしれません。
豊かさの総量は、単純に物が増えていくことに、比例するものでもないように感じます。
豊かな国の中にいて、さらに豊かに生きるためには、すでにある物の価値を高めていくことが肝要なのではないか…
今回のご寄稿文に、さまざまなことを思いました。
さて、私どもの図書館政策フォーラム、おかげさまで満員御礼となりました。同日の夕方、会場近くで会員総会も予定されております。こちらの方は、会員以外の皆様にも公開しております。
皆様のお越しをお待ちしております。
編集部 髙城 光
奥付
Cul De La 通信
2018年10月25日発行 通巻第6号
発行 一般社団法人日本カルチャーデザイン研究所